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株式会社ビッグフット くんぺい事業部

石原 均 Kin Ishiharaprofile

魔法使いはほうきにまたがって

 二十年前に上京し、初めて部屋を借りたのがこの街、中野の新井薬師である。学生時代から大ファンだった東君平さんが住んでいると聞き、一緒の町に居るというだけで妙にうれしかった。

 初めて君平さんと会った時は、強烈なバリアを感じ近づきがたい印象を受けた。後に仲間と君平さん談になった時、皆、そうだったと聞きホッとした。しかし、君平さんは女性にはずいぶん甘かったよナアと笑い話になったが……。

 当時、イラストの世界で何とか一人前になろうと燃えていた私は、夢の銀座での個展が決まり、案内状をいのいちばんに憧れの。東君平様宛に送った。数日後「お祝いはお花かお酒、どっちがいい?」と聞かれ、思わず「お酒!!」と答えると、オープニングパーティの日に合わせ、銀座のデパート松屋から木箱六木入りの美味な日本酒をエッサ、エッサと担いでお祝いに駆けつけてくれ、「おめでとう。石原君!!」とひと言。まさか来てもらえるとは夢にも思っていなかった私はその場で直立し固まった。

「うれしかった」

 その時を機に急接近し、その後、いろいろと仕事を創ってもらう事になり、その時が私の出版界デビューとなった。

 文・東君平、デコボコ絵・石原均という形でデビューした。デコボコ絵とは、私の作品は紙粘土を素材にし、レリーフ・立体物を創るので、君平さんが命名した。今、思い出しても可笑しい。

 そんな事を思い出しだのは、昨年の暮れ、長女の菜奈さんから個展の案内状が届いたからだ。

 早速、オープニングパーティに駆けつけると、「ワアッ! キンチャン、来てくれてありがとう!!」と叫び、飛びついてきた。

 菜奈さんはアメリカ留学していたので、こうして会うのは久し振り。見違えるほど洗練され美しくなっていた。こんなに美人になった菜奈さんを見たら、きっと君平さんは惚れてしまうに違いない。個展の充実感もあり、キラキラ輝いていて、クリックリッと大きく澄みきった瞳は君平さんと一緒だ。画廊に展示されたカラフルでポップな作品は彼女の世界が見えかくれし、可能性を充分秘めていてなんだか安心した。

 すっかり兄貴の気分になっていた。

 そんな菜奈さんに私の初個展のオープニングパーティの時の話をし、君平さんと同じように「お祝いはお花か、それとも何がいい?」と尋ねると、「じゃ、これからいっぱい絵の描ける水彩筆!! でも、少し高いけど……」もちろん「OK!!」さすが女性「お酒!!」とは言わなかった。木箱六木入りの重い日本酒を担ぐ事を思えばカルイ、カルイ。

 クリスマスイブの夜、真っ赤なリボンを付け、「石原サンタ」は彼女の家のポストにお祝いのプレゼントを投函した。翌日の夕暮れにあふれんばかりの喜びのいっぱい詰まったお礼の可愛いクリスマスカードが私の仕事場に届いていた。

 君平さんが亡くなってから、サンリオ恒例のパーティにはよく東ファミリーと出席していたので、やなせたかし先生からは「オッ、東家のボディガード!!」とよくからかわれた。私が太っているせいでもあるが……。

 やなせ先生は「君平さんは魔法使いのような人だった」と、口ぐせのように言っていた。私も同感だ。本当に不思議な人で、今でも魔法使いじゃなかったかと真面目に思っている。

 生前いつも夢を語っていた場所、山梨県小淵沢町に、八年前「くんぺい童話館」が建てられた。今年のゴールデンウィークに久し振りに遊びに行くと、連休中という事もあるが、お昼頃には、ワンサ力、ワンサカと来館者が列をなしていた。その数にもうビックリ!!

 八年前のオープン時、「大丈夫かしら……」と、不安げだった奥さんの英子さんの顔を思い出すと、現在の、生き生きと、楽しそうに多数の来館者を手際よく接客している姿がまるでウソのようだ。

 君平さんがテラスに座り、この光景をニッコリとしながらボンヤリと眺めている気がする。君平さんの魔法の香りが漂っている。

 そして、前より大きくなった本棚には著書がドドーンと増えていた。廃刊になった絵本達が君平さんの力でふたたび生き返っている。

 生まれ変わった絵本達が元気いっぱいに並んで、それぞれの本が自己主張している。

 ここにもプンプンと魔法使いの香りが漂っている。

 ストレートに子どもに入り込み、やさしくはなしかける君平さんの世界。

 親から子へ、子から孫へと永遠につながってゆく魔法使いの世界。そして丸い丸い地球の世界へ、国境を越え、魔法使いの君平さんはほうきにまたがり、世界中の子どもから大人へと魔法の呪文をかけにゆく。

 世界中で愛される日が来るのは近い将来のような気がする。

 PS.君平さんが亡くなる寸前まで力を入れて創っていた未発表の詩集が、くもん出版から刊行されると聞いた。担当の編集者は「この作品は君平さんの集大成!!」と、鼻息荒く熱っぽく語ってくれた。彼も私と同様、君平さんに育てられ、「やっとお世話になった君平さんにお返しができる時が来たんですよ」と、喜んで私に話してくれた。

 晩年「これからは詩を書きたい」と言っていた君平さんの、222編の四行詩を集めた詩集『このあいだのかぜに』が、没後十年目の今年、十二月三日の命日を前に出版されるという。
                     一九九六年 盛夏



くんぺいさんのこと 

やなせ たかし  Takashi Yanase
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岸田今日子  Kyouko Kishida  
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辻 仁成  Hitonari Tuji
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さだ まさし  Masashi Sada  
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安珠  An Jyu  
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エム・ナマエ  Emu Namae  
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桂 文我  Bunga Katsura  
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敬称は省略させていただきました。