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株式会社ビッグフット くんぺい事業部

桂 文我 Bunga Katsuraprofile

「快さ」と「爽やかさ」の宝庫

 まずはじめに、私の自己紹介をさせていただきます。私は、大阪の爆笑人気落語家といわれた、桂枝雀の六番弟子です。

 師匠・枝雀に入門して二十年間、落語というものはこうすれば面白くなる、このようにとらえていくほうが良いということを、理論と実践により、さまざまな形で教わってきました。その中でも、特に師匠が時間をかけて教えてくださったのが「『快さ』と『爽やかさ』を大切にしなさい」ということでした。

 もちろん、こちらが「快い」と思い、「爽やか」と感じたことを客席にお伝えしても、人の心は千差万別だけに、それを「不快」に思い、「わざとらしい」と感じる方もあるでしょう。ただ、どなたの心にも響いたり、納得できたりすることをストーリーの中に入れ込んでいけば、つまり、人の心の中のト――爽快快感の最大公約数――を提供できれば、客席の満足はそれなりに得られるものと思います。

 師匠・枝雀は爆笑落語家といわれながら、そのポイントを大切にして、私には「たとえ従来のネタより笑いの量が少なくなったとしても、不自然なギャグや、納得できないコント形式は控えたほうが良い。笑いは量より質。あくまでも、快く、爽やかな風が客席に吹くように心掛けなさい。それを実行していけば、あなたはそこそこの落語家になっていくように思う」と、くり返し助言してくださいました。

 私は師匠の言葉を信じつつ、それを実践してきたつもりですが、勘違いも多かったようで、そのたびに師匠から叱られ、また励まされ、何とか二十年という年月を、今日まで落語家として歩んでくることができました。

 人生の指針であり、水先案内人(たとえが悪いかもしれませんが)である師匠を失いましたのが、平成十一年の半ば……。

 その頃、私の独演会で、NHKのアナウンサー村上信夫氏から、君平さんのご長女・東菜奈さんを紹介され、君平作品の数々を楽屋見舞いとしていただきました。

 以前にも「おはようどうわ」は新聞紙上で何回か目にしていたのですが、これだけまとめて読ませてもらったのは初めてでした。

 月並みな言い方ですが「目からウロコ」とはこのことで、君平作品には師匠の教えである「快さ」「爽やかさ」が、ギッシリと詰まっていたのです。そのうえに「ユーモア」と「ペーソス」がちりばめられており、まさに自分の理想とする世界が展開されていました。

「それは、そうだ」「うん、世の中にはそんなことが多い」「世の中はそうあってほしい」「動物も、昆虫も、植物も、物も、人間と同じ目線で見ることが肝心」などと感じさせる要素が多分にあります。難しいテーマも、さりげなく表現されてあり、まことに見事な読者へのメッセージとなっているのです。

 その中で、ことに「死」を扱ったものの素晴らしさは、他に例を見ないでしょう。

 動かなければ、生きているのか、死んでいるのかわからない(少なくとも、私にはそう見える)昆虫の「死」を、人間の「死」と同じくらいの悲しさで表現する――この巻(『おはようどうわ八巻』)に収録されている「クマバチ」、六巻の「カナブン」、五巻の「なつのおわり」は、その感性の集大成であり、君平さんの面目躍如といったところではないでしょうか。

 また、私の気づいた、もうひとつの素晴らしさは、君平作品が目で読んで楽しむだけではなく、自らが口に出して読んでみたり、人の朗読を耳にしたりしても、とても「快く」「爽やか」ということです。

 それは、実になめらかな「話し言葉」で書かれていることの証明であり、そのうえ、添えられているイラストも、読者に話しかけてきているように感じられるのです。

 師匠を失い、大きな穴があいていた私の心を、いろいろな意味で癒してくれた君平作品との出会いは、私の人生において、かなり貴重なものとなりました。

 後日、菜奈さんにお聞きしましたところ、君平さんは生前、師匠・枝雀の落語のカセットテープを、よく聴いて楽しんでおられたそうです。                       

 二人のセンスは、かなり近寄ったところにあったのかもしれません。



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敬称は省略させていただきました。